京都市の地図を見ていると東には比叡山、西には嵐山や松尾山があって
意外と緑が多いことに気づきます。
中心部だけを見るときれいに区画整理されて昔ながらの「〇〇小路」と名の付く道路や
寺社があちこちに点在していることから、古都を大切にしつつも
近代的な建物が多い街という印象を受けます。
でも京都府全体で見るとまだまだ自然が多く残されていることがわかります。
そんな京都の雄大な自然の中に何世紀も変わらず建っている寺社が数多くありますが、
今回は松尾にある鈴虫寺を紹介します。
草鞋を履いた幸福地蔵
「幸福地蔵」と言う呼び名は時々耳にしますが、「草鞋を履いた幸福地蔵」は
日本全国探してみても、鈴虫寺こと華厳寺にいらっしゃるお地蔵様だけだと思います。
華厳寺(通称鈴虫寺)は、京都の西側に位置する松尾山麓
(松尾大社があるところです)の自然に囲まれたお寺です。
京都駅から電車で40分、嵐山からでも電車で20分の距離にあって、
公共交通機関で行くには少し不便かもしれません。
それだけに自然がたくさん残されていて、
空気も空の色も街の中心よりずっと澄んでいます。
華厳寺は江戸時代中期、華厳宗の寺として鳳潭上人(ほうたんしょうにん)によって
開かれましたが、今は臨済宗の禅寺となっています。
寺の入り口は急な石段を登りきったところです。少しわかりにくいですが、
階段横には「鈴蟲の寺」と書かれた石碑があります。
少し息を切らしながら石段を上ると「幸福地蔵」様が私達を出迎えてくれます。
本当の名前は、「幸福地蔵菩薩」と言うそうです。
右手に僧が使う杖・錫杖(しゃくじょう)を、
左手に災いを取り除く宝珠(ほうじゅ)を持っています。
お地蔵様というと、昔からある地域の細い路地やお墓の近くなどで見かけることがありませんか。
日本昔話「かさじぞう」は誰もが知っているお話ですよね。
お寺の本殿奥に祀られている仏様と違い、
お地蔵様はもっと目につく場所にいて私達にとってはとても身近な存在です。
華厳寺(鈴虫寺)の「幸福地蔵」様は、日本で唯一草鞋を履いています。
これは「幸福地蔵」様自ら、参拝者の願い事をかなえるためにその人の元まで歩いて行くので、
草鞋を履いているんだそうです。
「幸福地蔵」様に願い事をきいてもらおうと遠方から参拝に訪れる人も少なくありません。
心配事や悩み事がある人は一度お参りに行ってみませんか。
松尾の大自然に触れるだけでもきっと心が軽くなるはずです。
でも「幸福地蔵」様は毎日多くの人の願い事に耳を傾けています。
お願いする内容は本当に叶ってほしいこと1つだけに絞ってくださいね。
またほとんどのお寺や神社にあるように、鈴虫寺にもお守りがあります。
お札やお守りは仏様の化身で私達を災いから守ってくれると伝えられています。
鈴虫寺のお守りには「幸福地蔵」様の姿が入っているそうです。
これに関しては「鈴虫説法」の中で詳しく説明してもらえます。
鈴虫寺の由来
スズムシは日本古来の昆虫でコオロギの仲間とされています。
小学校の音楽の時間、
「あれマツムシが鳴いている…あれスズムシも鳴き出した…」と
歌ったことを記憶している人も多いでしょう。
歌にもあるようにスズムシは、暑い夏に終わりを告げるように
夜が少しずつ長くなる頃から鳴き始めます。
これはオスがメスに求愛をするためハネをこすり合わせる時に出る音です。
スズムシの寿命は3か月ちょっとですが、鳴き声を聴かせてくれるのは最期の20日だけなのです。
ところがこの鈴虫寺では何と一年中スズムシの声を聴くことができます!
というのも、鈴虫寺では約6000匹ものスズムシが飼育されているからです。
そのきっかけはと言うと、8代目の住職が夜一人で坐禅中にスズムシの鳴き声を聴き、
悟りを開いたことによるそうです。
その後28年という歳月をかけてスズムシの飼育法を研究し、
遂に毎日ふ化させることに成功しました。
以後秋の虫の代表格のスズムシが季節を問わず鳴き続けていることから、
華厳寺は「鈴虫寺」の愛称で親しまれています。
境内には鈴虫・万虫供養塚がつくってあり、スズムシだけでなくあらゆる虫の霊を慰めています。
これもまた鈴虫寺ならではのものですね。
住職さんによる説経
鈴虫寺ではお寺本来の趣旨を大事にしているそうで、
参拝者にはご住職をはじめ6名の華厳寺の僧侶の方による「説法」があります。
通称「鈴虫説法」と呼ばれる説法は、禅宗の教え「茶礼」に基づいて
お茶とお菓子をいただきながら拝聴します。
説法なんて堅苦しい感じがしますよね?もっと気軽に
お寺の見学ができないのか?そう思う人もいるはずです。
ところがこの「鈴虫説法」、落語でも聞いているようで笑いが絶えません。
特に若い女性に大人気だとか。
誰にでもわかるよう言葉を選んで話していただく内容は、
お参りの仕方や日々の心持ち、時事ネタなどでリラックスして聴けるものばかりです。
30分程の説法ですが必ず「聴いてよかった」と思える内容で、
終わった時は笑顔になっていること間違いありません。
もちろん「鈴虫説法」なので、バックミュージックは鈴虫の合唱です。
暑い夏の日でも鈴虫の声を聴いているうちに汗がスーッとひいていきますよ。
ただしいくら笑い声を上げてしまうとは言っても、
これは落語や漫才と違って僧侶の方々による説法です。
写真撮影は禁止されているので、そこはきちんと守りましょう。
週末は混みあって待つこともあるので、可能なら平日に行くことをお勧めします。
鈴虫寺(華厳寺)の詳細
住所 〒615-8294 京都府京都市西京区松室地家町31
電話 075-381-3830
拝観時間 午前9時~午後5時(受付は午後4時30分まで)
拝観料 大人(高校生以上):500円
子ども(4歳~中学生以上):300円
※茶菓子付き
電車でのアクセス 阪急「松尾大社駅」より徒歩15分
バスでのアクセス 京都バス73・83番系統「苔寺 鈴虫寺」バス停より徒歩3分
まとめ
「鈴虫説法」と「幸福地蔵」様だけでお寺を後にしないで、お庭も見学してみてください。
きれいに手入れされた庭はとても落ち着いた雰囲気を醸し出しています。
高台にあるのでここから京都の街を一望することができます。
急な階段を頑張って登ってきただけのことはあります。
また鈴虫寺は紅葉でも有名なところです。
境内はもちろん石段付近も秋の深まりとともに木々が色づいてとても美しいです。
そして最後に重要なことを一つ…
「幸福地蔵」様にお祈りした願い事が叶った暁には、
「お地蔵様、お願い事が成就しました。ありがとうございます」
という気持ちを込めて報告に訪れてください。
「鈴虫説法」は6名の僧侶の方が順番にお話されるので、
前回とは別の方の違う説法を拝聴できると思います。
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